近代こけし収集

渋川市を拠点に活躍した創作こけしの巨匠、関口三作(せきぐち・さんさく、1925〜2018年)の作品を50年間にわたり収集してきた加藤さん。自宅の一室には退職後、1年かけて手作りしたというギャラリーが設けられ、110点に及ぶこけしのほか、作者本人との交流から譲り受けた貴重な各種美術品が収められ、関口さんの才能豊かな世界が広がっています。

関口さんは伝統的なこけしとは異なり、髪形、表情、衣装などが具象的に描かれた「創作こけし」を確立し、第1回「現代の名工」や全国こけしコンクールの内閣総理大臣賞3回受賞、黄綬褒章の栄誉を受けるなどした第一人者。渋川市の自宅にある工房で90歳を過ぎても意欲的に作品を制作し独創的で優れた作品を数多く世に送り出してきました。戦争体験から平和への願いを込めた「九条こけし」など独自の表現でも知られます。


収集のきっかけは、関口さん本人との縁でした。親族を通じて交流が始まり、直接言葉を交わしながら作品に触れる中で、その魅力に引き込まれていったそうです。「顔や目の表情が一つ一つ違っていて、見ていて飽きないんです」と加藤さん。以来、奥さまのあけ美さんも連れ立って展覧会やコンクールに足を運び、50年かけて少しずつ買い集めてきました。


ギャラリーには内閣総理大臣賞受賞作品など貴重なもののほか、大小さまざまなこけしが並び、圧巻。確かにそのひとつひとつの表情を見ていると引き込まれるように心が安らぎます。そして目を見張るのが、関口さん本人との交流の中で手にした絵画や直筆の年賀状、小物作品の数々。キトラ古墳で発掘された四神の壁画を描いた絵画や湯飲みなど、こけし以外に知られていなかった関口さんの才能に触れられる一点物ばかりで、「長く付き合いがあったからこそ残してもらえた」と振り返ります。ほかにも、加藤さんの娘さん2人の名付け親になってもらったり、お孫さんの初節句のこけしやひな壇を作ってもらったりしたことも。加藤さんのコレクションは単なる収集品ではなく、そうした作り手との思いをつなぐ「記憶と思い出の集積」でもあります。これまで、周囲にはコレクションの存在を広く知らせることはありませんでしたが、今回、この記事に登場するにあたり、「見てくれた人の心が少しでも癒やされたらうれしい」と話してくれました。その表情は作品と同じように穏やかで温かでした。



