
群馬県桐生市で「CRAFT ALE CHIGIRA」という小さなブルワリーを営んでいる。このブルワリーは義理の父が立ち上げたもので、現在は二人でビールづくりに向き合っている。
もともとは18歳で自衛隊に入隊し、7年間勤務した。その後、農業に携わりながら3年を過ごし、結婚をきっかけにこの世界に入った。異なる分野を歩んできたが、それぞれの経験が今の自分の感覚につながっているように思う。
ビールは、ただ喉を潤すための飲み物ではない。一杯の中には、温度や時間だけでなく、そのときの判断や迷いまでもが含まれている。同じレシピで仕込んでも、同じ味になることはほとんどない。その日の気温や湿度、自分自身の感覚のわずかな違いが、仕上がりに影響する。だからこそ、ビールづくりは単なる作業ではなく、毎回が対話のようなものになる。
目指す味はある。けれど、その通りにいかないことも多い。むしろ思い通りにならなかったときに、新しい発見がある。何を残し、何を変えるのか。その選択の積み重ねが、そのまま一杯の個性になっていく。
多くの人にとって「おいしい」と感じてもらえることは大切だ。しかし同時に、自分自身が納得できるものであることも同じくらい大事にしている。その二つの間で揺れながら、ちょうどいいバランスを探し続けている。
完成したビールは、一つの区切りではあるが、決して終わりではない。次はもっと良くできるはずだという感覚が、次の一歩につながっていく。その繰り返しの中で、少しずつ自分の味に近づいていくのだと思う。
派手さや分かりやすさだけではなく、飲んだあとにふと記憶に残るような一杯をつくりたい。すぐに答えが出なくてもいい。時間をかけて、その人の中に残っていくようなビールでありたい。
桐生から全国へ、そして世界へ。
その一杯が、少しでも遠くへ届くことを願いながら、これからもつくり続けていく。


