群馬県教育委員会の取り組むSAH(非認知能力の育成事業)の指定校となった県立新田暁高校。生徒主体で動きだした取り組みは、学校生活に新たな風を吹き込んでいる。「通って楽しい学校にしたい」と語る生徒会長で3年生の渡辺璃紗さんを中心に、あいさつ運動やクラスTシャツの背ネーム問題など、自由と秩序の両立を目指す挑戦が始まっている。

(2025年5月16日付「みんなの学校新聞」記事から)

生徒会の第一歩 「あいさつ運動」の刷新

 今年度から同校は、群馬県が進める非認知能力育成事業「SAH」の指定校となった。その知らせを受けた生徒会長の渡辺璃紗さんは、「やったぁ」と喜びをかみしめたという。

 「苦痛になる学校より、通って楽しいって思える学校がいいじゃないですか。生徒たちがルールを守りながら本当に自由に動ける、やりたいように楽しめる学校にしていきたい」と、渡辺さんは力を込めて語る。

 生徒会として最初に取り組んだのが「あいさつ運動」の見直しだ。これまで同校では、期間を定めて登校時に生徒会役員や野球部、風紀委員が校舎玄関に立ち、登校する生徒にあいさつを促す活動を行ってきた。

 しかし渡辺さんは、「自分たちから声をかけても、あいさつを返さない子もいるし、そもそもあいさつできない子もいます。今までのやり方では、あいさつできる子が増えることはないんじゃないか」と疑問を抱いていた。

恐竜の着ぐるみとスタンプで空気を変える

着ぐるみを着たあいさつ運動(写真提供/新田暁高校)

 「威圧感のある雰囲気を変えたい」との思いから、渡辺さんが発案したのが「恐竜の着ぐるみ」を活用したあいさつ運動だ。あいさつを呼びかける側が直接声をかけるのではなく、恐竜が「挨拶してね」と書かれたプラカードを持ち、あいさつできた生徒にはスタンプを押す仕組みに変えた。

 このスタンプの運用には、同校で前年度から導入された「功労賞」の仕組みを応用した。功労賞は、テストの成績や部活動の成果といった目に見えるものではなく、日々の努力や態度など、見えにくい頑張りを評価する制度。金曜の放課後にその週の振り返りを行い、生徒一人ひとりが継続的に取り組んでいる。学年末の修了式では表彰とともに、粗品も贈られる。

 この制度をあいさつ運動にも取り入れ、スタンプを多く集めたクラスを表彰し、粗品も贈呈することにした。粗品の費用は生徒会の予算から捻出。渡辺さんを中心に生徒会が企画書を作成し、先生たちにプレゼンを行って実現した。

 5月上旬からスタートしたこの新たな取り組みについて、渡辺さんは「以前とは全然違って、自分から進んであいさつしてくれる子が増えました」と手応えを感じている。

あいさつ運動のスタンプカード
スタンプを押してもらっている様子
(写真提供/新田暁高校)

クラスTシャツの「背ネーム」問題に揺れる

 生徒会が動きだしたもう一つの課題が、「クラスTシャツの背ネーム問題」だ。学校行事で着用するクラスTシャツの背中に入れる文言について、以前は自由に決めることができた。ニックネームや座右の銘など、本名以外も可能だったという。

 ところが、今年度から「本名のみ」とする規制が導入された。学校側は、自由にしすぎるとトラブルの原因になると判断して規制を設けた。「先生たちの気持ちも分かるけれど、私たちからしたら思い出にもなるし、個性を出せる場面だから、何としても残したい」と渡辺さんは話す。

 生徒会側は「学校もインスタで行事の様子を発信しており、本名が写り込むこともある。個人情報の観点からも矛盾しているのではないか」と反論。自分たちの考えや他の学校の運用状況などを調べて書面にまとめ、全クラスを対象にした署名活動を始めた。

 現在は「背ネーム」を自由化する一方で、不適切な表現を防ぐルール作りを進めており、生徒と教職員の双方が表現内容をチェックする体制を検討している。

生徒一人ひとりが成長できる学校に

 生徒会顧問の野村美由記教諭は「つい口を出してしまうこともあるけれど、生徒主体の取り組みに対して、自分はフォローする側として、生徒たちと二人三脚でより良い学校をつくっていきたい」と語る。

SAH 活動について話す生徒会長の渡辺さん

 渡辺さんのまなざしにも迷いはない。「総合学科なので個性や才能のある子が本当に多いんです。生徒が何かをやりたいと思ったらできる学校にしたい。つぼみが美しい花を咲かせられるような環境というのかな。この学校を一人ひとりが成長できる場にしていきたいです」

(編集部)

本記事は「みんなの学校新聞」で読むことができます
https://np-schools.com/news/13741


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