思えば、よく40年以上も蛇族研究所の研究員を続けることができたなと思います。スネークセンターとして蛇類の展示もしているので、数多くのヘビの飼育もしなければなりません。また、大学の生化学や薬理学研究室等へ蛇毒を販売していたので、以前は海外から毒蛇を購入して採毒をしていました。タイコブラやタイワンコブラ、ドクフキコブラ、アマガサヘビ、ウミヘビ類、海外のマムシ類、もちろん日本のハブ4種類とマムシなどから定期的に採毒していました。その他にもキングコブラをはじめ、ブラックマンバ、ヒャッポダ、ガラガラヘビなどかなり危険なヘビからの採毒は麻酔をして行っていました。現在でも日曜のイベントではハブの採毒をしていますが、時にはイベントでキングコブラやブラックマンバの採毒もします。今では日本における蛇毒の研究者が非常に少なくなったことと動物愛護に関する法律も厳しくなってきて海外からの毒蛇の入手が難しくなったこともあり、海外の毒蛇からはあまり採毒はしなくなりました。しかし、毒蛇の輸入は可能で、ペットショップの職員が咬(か)まれる事故がまれに起きます。

 以前は毒蛇がペットとして輸入され、違法に販売された毒蛇に咬まれる事故が時々起きていました。かなり前になりますが、ペットショップが無毒蛇と間違えてコブラ科のアマガサヘビを販売し、持ち主の友人が咬まれるという事故がありました。このヘビは非常に強い神経毒を持っており、朝咬まれて午後には完全に呼吸が止まってしまいましたが、幸い大学病院に入っていたため人工呼吸で救命できました。病院から連絡があり、持ち主からヘビの形態や模様を聞いて、コブラ科のアマガサヘビではないかと推測し、毒の作用などについて情報を提供しました。偶然にも以前アマガサヘビを含めた神経毒の研究もしていて、神経毒によるまひに対する抗毒素と薬剤の併用治療による効果を調べていました。アマガサヘビ類の咬傷(こうしょう)では1カ月も人工呼吸が必要な場合もあります。抗毒素がなくても人工呼吸をしていれば一応回復はしますが、神経が少し壊れるので疲れやすいとか目が乾くなどの後遺症がみられます。当研究所には他のアマガサヘビの抗毒素があったため、群馬から東京まで5台のパトカーを乗り継いで病院まで運びました。国内では経験することのない咬傷患者を直接見ることができ、また、その治療にも関わることができたのは貴重な経験でした。漢方薬店で中国のタンビマムシに咬まれた症例もありました。このマムシは神経毒が強く、患者は2カ月近く補助呼吸を必要としました。その他、違法飼育のグリーンマンバやクサリヘビ、ガラガラヘビによる咬傷も起きています。このようなときには警察からの依頼で家宅捜索に協力することもありますが、人によっては家宅捜索されることはあってもする側の経験はないと思います。ベトナムやインドネシアなどでヤマカガシ類による咬傷が発生し、抗毒素に関する問い合わせがくることもあります。もちろん国内におけるマムシやヤマカガシ咬傷の問い合わせは毎年数多くあります。このような特殊な施設に長くいると、運営上の問題はありますが、一般の人が経験しないようなことが経験でき、また、自分の研究が多少なりと役立てられたことはまんざらでもなかった気がします。

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