足利市、東武鉄道福居駅近くにある赤レンガ工場。東京まで同鉄道を利用したことがある人なら多分、目にしたことはあるでしょう。「トチセン赤煉瓦(れんが)工場群」といい、完成から100年を超えるこの工場群は昨年、産業遺産学会の推薦産業遺産にも認定されました。
 また、多くの映画やドラマなどが撮影される足利市内にあって旧足利西高校(大前町)と双璧のロケ地でもあり、数多くの作品に登場し、存在感を示しています。現在も現役で稼働する同工場群のロケ地としての魅力とその歴史をちょっとひもといてみましょうか。

朝ドラから大ヒット映画まで、次々と舞台に選ばれる人気のロケ地に

 8月下旬に放映された日本テレビ「24時間テレビ愛は地球を救う」の番組内のドラマ「トットの欠落青春記」、NHKスペシャル「大阪激流伝 おもろいこと おそろしいこと ぎょうさんおました」のロケ地としてトチセンは画面に登場しています。

 さかのぼると、最初にロケで使用したいとオファーがあったのは20年近く前。「この際は諸事情でおことわりしました」と同社の秋草俊二社長(71)は振り返ります。ただ、業界内でトチセンの存在が知られるようになり、2008年に「足利のことや(貴重な歴史・文化遺産である)工場群の存在を知ってもらえれば」とロケの受け入れを開始しました。

 同社が作製し、主なロケ作品を紹介しているパンフレット「トチセン映画撮影 ドラマ撮影のあゆみ」をみると同年2作品、4年の間があいて12、13、14が1作品。このころ市が「映像のまち構想」を打ち出すとがぜん注目されるようになり、16年にはNHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」に登場。翌17年には綾瀬はるかさん主演の映画「今夜、ロマンス劇場で」やTBSテレビ「陸王」のロケ地として使用されました。「今夜、ロマンス劇場で」では約1カ月半もの間、撮影が行われたそうです。

 18年には一気に増え日本テレビのドラマ「今日から俺は!!」、映画「アルキメデスの大戦」など6作品が収録されました。

 「せっかくロケ地に選んでもらえたのだから、きちんと対応したい」と19年1月、社内にフィルムコミッション事業部を立ち上げました。

 その後も19年には映画「今日から俺は!!劇場版」、フジテレビ「ルパンの娘」など6作品、20年には4作品、21、22、23年には2作品、24年には映画「宝島」(今週公開、本紙4面で紹介)、映画「アンダーニンジャ」、TBSテレビのドラマ「海に眠るダイヤモンド」など5作品の撮影が行われました。ドラマ、映画以外にもCMなどの撮影にも使われています。

 映画、ドラマのロケ隊が来る際は通常の社員駐車場をすべて開放し、社員はその間だけ別の場所に駐車場用地を借りたり、応接室や会議室を控室として利用してもらうなど利便性を向上させて、側面から撮影の支援もしています。こうした細かい配慮もロケ地としての人気を高めている要素かもしれません。

 秋草社長は「まさかうちの会社で、日常的とまではいいませんが、俳優さんたちが普通に社内を歩いている日が来るとは思いませんでした」と笑います。「撮影が入っているときも会社は仕事をしています。事務所への階段を駆け上がる人をふと見て出入りの業者さんかなと思ったら役所広司さんだったり、事務所内を歩いていてだれかが後ろついてくるなと思って振り返ると神木隆之介さんだったり」とこうした場面はたくさんあるそうです。

 ロケ地として業界内で認知され、数多くの作品が生み出されたのは貴重なれんが工場群を保存活用してきたからこそだといえます。ですね。

創業1914年、赤煉瓦(れんが)工場が語る トチセンの歴史と価値

 トチセンは1914年、足利織物として設立されました。現在は化成品フィルムの染色や特殊表面処理加工などを手掛けるプラスチック製品製造メーカーです。

 19年に社名を明治紡織に変更。49年に栃木染色となり、75年に現社名となりました。工場内施設は1566平方㍍の面積を持つ捺染(なっせん)工場、赤れんが汽罐(きかん)室(ボイラー室)、サラン工場が赤れんがの代表的な建物です。

 捺染工場は建物上部北側に採光窓のある6棟のノコギリ屋根が連続してかけられ、内部に広い空間をつくり出しています。汽罐室は北、中央、南棟があり、ランカシャーボイラー、横置多管式ボイラーなどが設置されています。サラン工場は電車の車窓からよく見える施設で線路側に大きな窓がたくさん並んでいます。これら赤れんが工場群は13年ごろから22年にかけて建てられた建築物です。

 5代目社長の秋草社長は「東京に営業に行ったときキレイなオフィスを見たり、足利でも新社屋が建てられたりするのを見たりして、うちだけ古いなと思っていたときもありました。でもよくよく考えてみて、こうした工場を維持管理しながら残していくことは、他の人では経験できないのでは、という思いに変化してきました」と話します。代々受け継がれてきた建物を未来へ引きついでいこうという気風が社内に広がっていきました。

 その思いは99年のれんが工場2棟の国登録有形文化財の指定、07年の近代化遺産認定、08年の汽罐室と汽罐2基の国登録有形文化財への追加認定とつながっていきました。

 さらに「取り巻く環境の変化があっても工場群を残していくために新たな価値を付加したい。そのためには自分たちが工場群の歴史などをより理解する必要がある」と20年に外部から専門家を招き、推薦産業遺産推挙に向け、より詳細な研究調査を進めてきました。その過程で不明だった工場群の建造年や同社の歴史も明らかになり、秋草社長と専門家がまとめた「近代に建造された現役稼働の煉瓦造工場群の今日的意義ー株式会社トチセンを事例とした史的分析および考察ー」が24年3月下旬に発行された学会誌に掲載され、やがて認定という結果につながりました。

 同社に使用されている赤れんがは渋沢栄一が中心となり設立した日本煉瓦製造のもので、ここで造られたれんがはトチセンのほか東京駅や迎賓館(旧赤坂離宮)、法務省などでも使用されているということです。

 ロケポイントとしてよく使用されるのは赤れんがの汽罐室と木造の電気室と木工室の間のスペースなどで、戦前、終戦直後のシーンに多用されているといいます。

 工場見学ガイドのパンフレットも作製し、これまで20~50人ほどのグループなどを受け入れた実績もあります。案内役は主に秋草社長ですが「全社員が私と同じ説明で案内できます」と笑顔で胸を張ります。トチセンファンを1人でも多く増やし、貴重な建築物群を未来へとつなぐ、強い思いがあります。

 工場見学については、通常、社員のみなさんが仕事をしているので、受け入れられるかどうかについて事前の相談が必要です。問い合わせはトチセン(☎0284・71・2151)へ。

 現在、サラン工場は世界アルツハイマーデーに合わせオレンジ色にライトアップされています。9月30日までです。同社は難治性乳がんサポートプロジェクトなどさまざまな活動の啓発普及にライトアップやフィルム提供(市内各所のライトアップ)というかたちでも協力をしています。

【情報】

トチセン
栃木県足利市福居町1143
0284・71・2151