
4月28日に手術決定という電話があった。宝くじでも当たったかのように、みんなで大喜びだった。結果がどうであろうが最後の手術になる。不安なときは、いつものように負けない戦国武将の本を読む。雑念がなくなる。手術2日前、東京へ向かう。
早朝から小雨が降っていた。不安も迷いもない。病院に到着するといつものナースが笑顔で迎えてくれた。夕方、家から連絡があったとき、「虹が出ている」と知らされた。朝、雨だったので夕方晴れれば虹が出るのは自然なことなのかもしれないが、なぜ今なのだ。やはり誰かが背中を押してくれている。「ありがとう。がんばるよ!」と心の中でつぶやいた。
手術室へ向かうまで鉛色の扉がいくつもある。13号室の前にいる担当ナースたちに手術の内容を自己報告し、手術台に乗った。麻酔マスクを口に当てられる。より効果がでるようおなかの底まで大きく息を吸った。
おなかの3分の1の臓器を摘出し、大手術は無事終わった。病室へ移ったがいつもと違う。豪華すぎる。部屋代が気になる。心臓によくない。ナースに聞くと「無料希望だから大丈夫よ」と言う。そういえば入院申し込みの時、娘が無料の欄に恥ずかしげもなく大きな花丸をつけて希望していたのを思い出し安堵(あんど)した。ナースが「連休で誰も入院してこないからゆっくりしてください」と言ってくれたとき、ハッ!とした。私が先生にしてほしいと無理を言ったこの手術は、患者さんではなく先生がご自身の連休を犠牲にしてくれたのだ。
回診のとき先生にうかがうと「経過も良いので明日から休みますよ」とにこやかに言ってくれた。すでに5日が過ぎている。お礼を言おうと先生の顔を見上げたが、涙で顔が見えない。「ありがとうございます」と言いたいのだが、声が出ない。そのまま感謝の涙は止まらなかった。思い出せば応援してくれたたくさんの人たち。背中を押してくれた影もいた。思い出しながらまた涙がでる。
術後、先生の話では右腎臓まであと1〜2㌢のところまでがんは迫っていた。幸い、間に合い助かった。計り知れない多くの人の深い愛情のおかげで、私は今、まだ、生きている。
さらに仕事ができることが、最高のおまけなのです。


